伝承之蔵

沢口覚左衛門と狐
加美町

   文化 年間、 沢口覚左衛門 という猟師が をとるために、犬を連れて山に入ったのだが、その日にかぎって雉が少なく、やっと撃ち落とした一羽の雉が河原に落ちていった。ところが、確かに撃ち落としたはずの雉が、どこを探しても見あたらない。すると、突然、笹原に向かって犬が吠えはじめたので、覚左衛門は、「 どうしたんだ?何もいないのに… 」と思いながら、その場で昼食をとろうとすると、川の上流の方から、十三歳くらいの少女が歩いてきた。覚左衛門は、「 おかしいな…、この河原は、人が通行するような場所ではない。まして、少女が一人で歩くなんて… 」と思いながら見ていると、その少女は、 笹原 を歩いているのに、まったく笹が動いていないことに気づいた。「 音もなく、まったく笹を動かさないで笹原を歩くということは、人間ではないな 」と思った覚左衛門は、その少女に鉄砲を向けて撃とうとしたのだが、「 いや、まてよ。こんなときこそ、冷静にならなくては。とにかく話しかけてみよう 」と思い、「 どこに行くんですか? 」と声をかけてみたのだが、少女は、「 うふふ…、うふふふふ… 」と笑うだけであった。連れてきた犬も、恐怖のあまり大量の汗をかき、伏せながら震えている。このとき、ふと、覚左衛門が、 七〜八間 ほど離れた笹藪を見てみると、狐の顔が少し見えたので、「 そうか!あいつが幻覚を見せているのかもしれない! 」と思った覚左衛門が、その少女を鉄砲で撃つふりをしてからサッと向きを変えて、その狐を撃ったところ、狐も少女もスーッと姿を消してしまった。そして、覚左衛門が、その笹藪の中を見てみると、老いた雌の狐が死んでいた。昔から、この里には悪戯をする狐が棲みついていて、いつも、里人たちを騙して楽しんでいたのだが、その後、そのようなことがなくなったので、里人たちは覚左衛門に感謝し、みんなで喜んだという。

参考 『 宮崎町史 』
現地で採集した情報