伝承之蔵

運の良い男
丸森町

   昔、この里に、他人より力は強いのだが、弓を射るのが下手で困っている若者が住んでいた。ある日、その若者が、矢を遠くに飛ばす練習をしていると、偶然、その矢のうちの一本が、蔵に侵入しようとしていた盗賊の尻にあたった。「 あんなに遠くから、盗賊の尻に矢をあてるなんて、たいしたものだ 」と、この里で評判となり、ついには、殿様から領内で活動している盗賊を退治するように依頼されたのだが、その若者は、「 あの矢は、偶然、あたったものです 」とは言えず、殿様に、「 承知いたしました。私に、お任せください 」と答えてしまった。

   次の日、その若者は、弓矢と里人たちがつくってくれた毒入り饅頭を持ち、殿様からあずかった馬と数人の家来とともに、盗賊を退治するため、盗賊のアジトに向かった。ところが、その途中、突然、馬が暴れたかと思うと、全速力で走りはじめたので、初めて馬に乗った若者はどうすることもできず、ただただ、馬にしがみつき、馬がとまるのを待つしかなかった。そして、しばらくすると、馬がとまったので、若者が、そっと、まわりを見てみると、そこは、盗賊のアジトの庭であった。「 こんなところを盗賊たちに見つかったら、殺されてしまう… 」と思った若者は、近くにあった松の木に登り、家来たちが来るのを待つことにしたのだが、その間、その若者は、恐怖のあまり、ガタガタと震えはじめ、腰にぶらさげていた饅頭をボタボタと地面に落としてしまった。すると、その音に気がついた盗賊たちが、庭に出てきて、「 風が強くなってきたようだ。ん? おい、饅頭が落ちてるぞ! みんなで食おうや! 」と叫び、地面に落ちている毒入りの饅頭を食べはじめたのだが、その毒入り饅頭の効果はすさまじく、数分の間に、その盗賊たちは、全員が死んでしまった。

   その様子を木の上で見ていた若者は、「 よし、今だ! 」と叫び、木からおりて、一人ひとりの盗賊の遺体に矢を刺してまわり、しばらくして、駆けつけてきた家来たちに、「 すでに、盗賊たちは、私の矢によって退治された 」と話した。すると、家来たちは、「 おぉぉぉ〜! さすがは弓の名人だ! おみごと! 」と言って、その若者を賞賛。その後、殿様からも、たくさんの褒美をもらった若者は、一生、幸福に暮らしたという。

参考 『 丸森町史 』
現地で採集した情報