伝承之蔵

根廻の大杉
松島町/根廻/蒜沢

   昔、この里に、ある長者が住んでいて、その長者の屋敷には、多くの下男や下女がいたのだが、その中のおいさという下女が、ある年の十一月十五日、お祝いのための餅を喉につまらせて死んでしまったので、たいへん悲しんだ長者は、おいさの遺体を敷地内に埋葬し、祠を建てて、懇ろに弔った。しかし、それから数年後、残念ながら、その祠は撤去されてしまい、その祠の跡に杉の木を植えたところ、近くの浜の漁師たちの目印になるほど大きな杉に生長したため、この杉は、“ 根廻の大杉 ”と呼ばれるようになり、漁師たちは、安全のため、この杉が見えなくなるまで沖にでて漁をすることはなかった。さらに、それから数十年後、この大きな杉を伐採して船を造ったのだが、船卸しをしようとしても、どうしても、この船が動かなかったので、ある里人が、「 この船は、おいさという女性の墓印だった杉で造ったらしいぞ。みんなで、おいさに祈願してみてはどうだろう? 」と提案し、里人たちが、「 おいさおいさ。船を動かしておくれ! 」と祈願してみたところ、不思議なことに、ゆっくりと船が動きだして海に浮かんだという。

参考 『 松島町誌 』
現地で採集した情報


現地レポート

この伝承は、現在、 蒜沢 に住んでいる阿部家での話であり、故・ 阿部清一 さんの何代か前のことらしい。この伝承の杉の切り株に関して、松島町誌には、「 今もその切り株が残っているという 」とあるが、このことに関して、阿部家の方に聞いたところ、「 現在、その切り株は残っていません 」とのことであった。因みに、この伝承のおいさが喉につまらせた餅は、“ 油絞め餅 ”という餅であった。油絞めとは、毎年、十一月十五日に菜種などから油を搾り、その油を保存するという年中行事のこと。この時、お祝いのためについた餅を油絞め餅と呼んでいた。しかし、この事故があって以来、阿部家では、この油絞め餅をつかなくなったという。


平成 19 年 11 月 9 日 ( 金 ) 掲載
令和 5 年 10 月 31 日 ( 火 ) 改訂