意地悪な庄屋と小作人 |
大河原町/堤 |
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昔、この里に、七つの大きな堤があり、その堤を所有していた庄屋は、その水を勝手に使用されないように、七つの家の小作人に堤を管理させていた。庄屋は、どんどん湧いてくる堤の清水を隣の里にも供給し、その利用料で莫大な金を儲けていたので、庄屋の敷地内には、次々に大きな蔵が建っていった。 ある年、ひどい日照りが続き、とうとう堤の清水が枯れてしまった。田植えを終えた里人たちは、 「 これでは、田圃の水が干あがってしまう ! 」 と思い、雨乞いの儀式などをして祈願したのだが、まったく効果がなかった。このとき、庄屋は、 「 ん 〜 、このままでは、水の利用料金で儲けられなくなる … 」 と思い、祈祷師に占ってもらったところ、 「 清水が湧いていた場所に穴を掘り、箱の中に若い娘を入れて生き埋めにしろ。五日間は絶対に掘り起こしてはいけない。そうすれば、六日目には必ず雨が降るであろう 」 という御告げがでた。 これを聞いた庄屋は、すぐに、堤を管理している七つの家の小作人を集め、自分にも娘がいるにもかかわらず、集まった小作人たちに、 「 明日の朝までに、お前たちの娘の中から、生け贄にする娘を一人だけ選んでおくように 」 と命令した。弱い立場の小作人たちは、この命令を拒否することができず、しかたなく、クジ引きで生け贄になる娘を決めることにした。そして、 「 どうか … 、どうか当たらないでくれ … 」 と願いながら、震える手で、クジ引きを始めたのだが、四番目の五作が、とうとう当たりクジを引いてしまった。 その夜、五作の家では、一晩中、明かりが灯り、家族のすすり泣く声が絶えることがなかった。翌朝、重苦しい雰囲気の中、里人たちが五作の家に集まったのだが、五作の娘の顔は真っ青で、目は泣きはらしたせいか、真っ赤になっていた。これを見た里人たちは、誰もがもらい泣きし、その涙が尽きることはなかった。そして、娘は、身を清めて白い着物を着てから箱に入れられ、堤の清水が湧いていた場所に生き埋めにされた。 ところが、二日が過ぎても雨が降る様子がないので、里人たちは、少しずつ焦り始めた。そして、三日目には、箱を埋めたあたりから、 「 お父さん ! お母さん ! 助けて 〜 ! 苦しいよぉ 〜 ! 」 という、娘の泣くような声が聞こえるようになった。その声は、だんだん大きくなり、とうとう五作の家にまで聞こえるようになった。五作の家族は、家を飛び出して娘を助けに行こうとしたのだが、里人たちが、 「 頼む ! 里のためだ。我慢してくれ ! 頼む ! 」 と説得したため、しぶしぶ家に帰り、ただひたすら娘の安らかな死を祈願した。 しかし、四日目になると、娘の声は、さらに大きくなり、 「 里のみんな 〜 ! 助けて 〜 ! 苦しいよぉ 〜 ! 」 という、なんとも悲しげな声が里中に響くようになった。これを聞いた里人たちは、もはや我慢できず、大人も子供も全員で堤に集まり、 「 すまなかった ! 待ってろよ 〜 ! 今、助けてやるからな 〜 ! 」 と叫びながら、必死で土を掘り起こした。ところが不思議なことに、箱を掘り出した瞬間、娘の泣き声はピタッとやんだ。里人たちが、そっと箱をあけてみると、娘は、眠ったような優しい顔をして死んでいた。里人たちは、 「 すまない … 。悪いことをした … 。許してくれ … 」 と言って泣いたのだが、庄屋だけは、 「 あれほど、五日間は掘ってはだめだと言ったじゃないか ! 」 と叫んで激怒した。しかし、庄屋の声など、悲しみの中にある里人たちの耳には入っていなかった。里人たちは、娘の遺体から目を離さず、ただひたすら謝り続けた。 その夜、庄屋の娘が行方不明になり、庄屋の屋敷は大騒ぎになった。そして、翌朝、屋敷の裏庭にある井戸の中に、娘の遺体が浮かんでいるのが発見された。庄屋は、自分の娘の無残な遺体を見て半狂乱になり、泣きわめいた。ちょうどそのとき、突然、雷が鳴り、サァ 〜 という音と共に雨が降り始めた。そして、堤の清水が再び湧き出し、堤は、みるみるうちに水でいっぱいになった。やがて、その清水は、あたりの田圃を満たし、枯れんばかりになっていた稲も生気を取り戻した。里人たちは、 「 やった 〜 ! 助かった 〜 ! 」 と叫んで喜び、 「 今年は、死んだ五作の娘のぶんも豊作にしなくちゃな ! 」 と誓って、誰もが必死に田圃の仕事に精を出した。そんな里人たちの姿を見た庄屋は、 「 すまなかった … 。おれが悪かった … 」 と言って、里人たちに謝り、自分が所有していた七つの堤を、それぞれ管理していた小作人たちに譲渡したという。 平成 25 年 9 月 19 日 ( 木 ) 掲載
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