伝承之蔵

フカ畑の化け物
大河原町/金ケ瀬/川根

   昔、この里で、いつもなら桜の花が咲くころなのに、たいへん寒い日が続いたことがあった。この里に住んでいた大村家でも、 「 どうしてこんなに寒いんだ ? 暖かくならないと田植えができない … 。どうしよう … 」 と困っていたのだが、ちょうどそのとき、みすぼらしい旅の男が大村家の屋敷の玄関に現われ、 「 すいません … 。寒いので火にあたらせていただけないでしょうか ? 」 と頼んだ。大村家の主人は、 「 みすぼらしい男だな … 。それに、どことなく不気味だ … 。このまま帰ってもらおう 」 と思ったのだが、よく見ると、その男は、みすぼらしい姿をしているものの、整った顔立ちで、話す言葉も丁寧だったので、 「 ん 〜 、この寒さでは、断るのも気の毒かな … 」 と思いなおし、屋敷に入れることにした。

   暖かい部屋の中に入って、しばらくすると、その男は、屋敷の家人たちに、 「 みなさんに、面白いものを見せてあげましょう 」 と言って、囲炉裏の中にある熱い鉄瓶の底に右手をあてて、その鉄瓶を持ち上げ、さらに、火の中に左手を入れて、灰をかき回して見せた。驚いた家人たちは、すぐに、男の両手を確認したのだが、まったく火傷をしていなかった。不思議に思った家人たちが、 「 あなたは、修験者か ? それとも、占い師か ? 」 と聞くと、その男は、ただ優しく笑うだけで、なにも答えなかった。

   このとき、主人は、数年前から、 “ フカ畑 ” と呼ばれている淵で、馬を洗っているときに馬の脚が引っぱられたり、子供たちが川で泳いでいるときに足を引っぱられて溺れそうになるなど、不審なことが続いていることを思い出し、 「 この男に相談すれば、なんとかなるのでは … 」 と思い、その男に事情を話してみた。そして、翌日、主人が、その男をフカ畑に連れて行くと、その男は、じっと川の水面を見つめ、 「 う 〜 ん … 、確かに、化け物がいます … 。私たちだけでは、どうすることもできないので、里人たちを呼んできてください 」 と呟いた。そのため、主人は、できるだけ多くの里人たちを集め、すぐに、化け物の退治を始めた。

   河原に生えている柳の枝で を作り、それをフカ畑の深いところに沈めると、すぐに、化け物が、グイグイとモッコを引っぱり始めたので、急いで男が呪文を唱えると、不思議なことに、化け物が静かになった。そこで、里人たちが、モッコを河原に引き上げると、信じられないくらい大きな亀が引っかかっていた。男が、里人たちに大きな紙を用意させて、この亀の甲羅の拓本をとってみると、その拓本に、 “ 金 ” という文字が浮き出た。男は、 「 おぉ ! こ、これは … 」 と呟き、里人たちに、 「 この亀は、金華山と関係があります。丁寧に対応しないと悪いことが起こりますよ。早く、海に帰してあげた方が良いでしょう 」 とだけ言い残して、姿を消してしまった。その後、里人たちが、その亀を海に逃がしてやると、不思議なことに、突然、季節が変わったように暖かい日が続くようになり、フカ畑でも、馬の脚や子供の足が引っぱられることがなくなったという。


平成 25 年 10 月 17 日 ( 木 ) 掲載
参考 『 大河原のざっとむかし 〜 大河原の民話と伝説 〜 』
現地で採集した情報