伝承之蔵

久助と半人前の狐
大郷町/東成田

   昔、この里の 板谷峠 の近くに茶店があり、 久助 という御爺さんが、たった独りで旅人を相手に商売をしていた。ある日、一人の侍が店に入ってきて、 「 お爺さん、お茶を一杯 」 と注文した。堂々としている立派な侍だったのだが、久助が、その侍がかぶっている笠の下を覗いてみると、たいそう顔が細長く、口は耳のあたりまで切れ上がっていて、なんと、耳の形は三角形であった。久助は、 「 狐め … 、化けやがったな … 」 と思ったのだが、知らん顔をして、 「 お客さん、お顔をどうぞ 」 と言って、 手水鉢 に水を入れて差し出した。すると、鉢の水に映し出されている自分の顔を見た狐は、 「 しまった ! 顔が狐のままだった ! 」 と気づき、 「 キャイ 〜 ン ! 」 と鳴きながら狐の姿に戻り、一目散に山の中に逃げていった。翌日、久助が裏山で薪を取っていると、草むらの中から、 「 久助さん、久助さん 」 と呼ぶ声がするので、 「 誰だ ! 」 と叫ぶと、昨日の狐がピョコンと姿を現わし、 「 昨日はゴメンネ、笑っちゃうよね 」 と言って、そのまま山の中に姿を消したという。

平成 27 年 10 月 3 日 ( 土 ) 掲載
参考 『 おおさと 昔かだり 』
現地で採集した情報