伝承之蔵

おさん狐
利府町

   昔、この里に、 おさん狐 という、人間を騙すのが上手な狐がいた。ある日の夕方、ある里人が、馬の背に炭をのせて、 塩釜 に住んでいる娘のところへ行く途中、近くの草が、ガサッと音をたてたかと思うと、一匹の狐が現われ、その里人の五 〜 六歩さきを歩きだした。その里人は、少しだけ驚いたが、すぐに、「 ハハァ、これが噂の狐だな。騙せるものなら騙してみろ! 」と思い、わざと、知らんぷりをして、馬をひきながら、狐の後を歩いた。しばらくすると、その狐は、美しい人間の女性に化けて、馬をひいている里人の前を歩きはじめたのだが、その里人は、「 おっ、化けやがった! そんなことで、騙されるもんか! 」と呟きながら、そのまま、知らんぷりをして、その化けた女性の後を歩き続けた。

   やがて、道端にあった屋敷の近くまでくると、その化けた女性が、「 こんばんは♪ 」と言って、その屋敷の中に入っていったので、その里人は、「 あの野郎ぅ〜! この家の人を騙すつもりだな! 」と思い、道にあった古い杭に馬を結びつけてから、屋敷の障子に耳をよせて、部屋の様子をうかがった。すると、その部屋の中で、その化けた女性が、家の人に何やら話をしていたので、その里人が、舌で障子の紙をなめて、指で穴をあけ、両手の指で障子の穴を広げながら、「 あぁ! その女は、おさん狐だぞ! 騙されるなよ! 」と叫んだ瞬間、「 エヒン! エヒン! 」と馬の声がしたかと思うと、その里人は、自分の馬に蹴り飛ばされていた。そのときは、自分に何がおきたのかがわからなかったが、しばらくして、冷静になると、自分が障子の穴だと思って覗いていたのは、自分がひいていた馬の尻の穴で、そのため、馬を怒らせて蹴られたのだということに気づいた。そう気づいたときには、すっかり屋敷もなくなっていて、空には綺麗な月があり、風もないのに道にあった薄が揺れていたという。

参考 『 利府町誌 』
現地で採集した情報


現地レポート

利府町誌には、「 利府町森郷の新道から野中を経て塩釜に通ずる現在の県道は、明治初年頃にできたものでその前は今の新道溜池の上方から窪地を通り、野中の前の公民館附近に出る細道が元の旧道であった。この旧道にはその頃 『 おさん狐 』 といわれ、人をだます事に頗る妙を得た有名な狐がいた 」とある。


平成 21 年 10 月 24 日 ( 土 ) 掲載
令和 5 年 8 月 20 日 ( 日 ) 改訂