伝承之蔵

たろひ嫁
色麻町

   昔、この里に、たいへん真面目な男が住んでいたのだが、どんなに一生懸命に働いても家が裕福にならなかったので、その男の家には、嫁にきてくれる女性がいなかった。ある冬の朝、その男が玄関の戸をあけてみると、大きな たろひ がさがっていて、そのたろひが朝日にあたってキラキラ光り、たいそう美しかったので、その男は、ついつい、「  このたろひみたいに美しい女性が、私の嫁になってくれたら、どんなに幸せかなぁ…  」と、ひとりごとを言ってしまった。すると、その日の夜、その男の家の玄関の戸がドンドンと叩かれたので、その男が、「  誰だ?  」と言いながら戸をあけてみると、ほっそりとした色白の女性が立っていた。その男が、「  こんな夜中に、どうしたんだ?  」と聞くと、その女性がニッコリと笑って、「  どうか、私を、あなたの嫁にしてください  」と答えたので、その男が驚きの表情をすると、さらに、その女性が、「  私のことが、お嫌いですか?  」と言ったので、その男は、「  いやいや、気に入った!とても好きだ。あがれあがれ!  」と慌てて答え、その女性を家に入れた。

   その後、その男は、そのたろひのような美人と結婚したのだが、その年の冬は、今までにないくらいの大雪で、たいへん厳しい寒さの年であった。しかし、その男は、一日中、嫁の顔を見ながらニヤニヤして、それなりに楽しく暮らしていたのだが、唯一、何日たっても、その嫁が一回も風呂に入らないことだけが気がかりであった。そして、年を越して春が近づいてきたある日、「  嫁を風呂に入れて磨いたら、まだまだ美しい女になるぞ!  」と思った男が、隣の家の婆さんに、「  私の嫁を、何とか風呂に入れてください  」と頼んだところ、すぐに、その婆さんが男の家にきて、「  ほら、ほら。たまには風呂に入りなさい  」と言ったかと思うと、強引に嫁を裸にして風呂に入れたのだが、不思議なことに、それっきり、風呂場からは何の音も聞こえてこなくなってしまった。何時間たっても嫁が風呂からあがってこないので、心配した婆さんが、「  嫁や、嫁や!  」と声をかけながら、そっと、風呂場の戸をあけてみると、風呂場の中には誰もいず、風呂桶の中に嫁の櫛と赤い が浮かんでいるのみであったという。

参考 『 色麻町史 』
現地で採集した情報