伝承之蔵

嫁と火種と棺桶と
色麻町

   昔、この里にあった屋敷に、心の優しい嫁が住んでいた。ある年の大晦日、その嫁は、姑から、「  この家では、大晦日から正月まで火種を消さないことが決まりになっています。もし、今夜、火種を消したら、この家から出ていってもらいますからね  」と言われたので、慎重に炉を見ていたのだが、しだいにウトウトしはじめ、とうとう眠ってしまった。しばらくして、嫁が目を覚ますと、炉の火が消えて灰だけになっていたので、「  しまった!とんでもないことをしてしまった…  」と思った嫁は、すぐに、火種をもらいに雪深い道を走り出した。すると、その途中にある墓地で、十匹ほどの赤鬼や青鬼が、どんどん火を焚いて体を温めていたので、それを見た嫁が、「  鬼に食べられてしまうのではないか…  」と思ってブルブルと震えていると、その嫁を見つけた鬼たちが、「  こりゃ、娘!こんな夜中に、どこに行くんだ?  」と聞いたので、その嫁が、「  火種を買いに行くところです…  」と、小さな声で答えたところ、その鬼たちに、「  今から、死人を埋めなければいけないのだが、忙しくて穴を掘っている時間がねぇ。火種をやるから、この棺桶を持っていって、どこかに埋めてくれ  」と頼まれたので、その嫁は、火種と棺桶を持って逃げるように屋敷に帰った。そして、土間の隅に棺桶を置いて近くに横になると、疲れきっていた嫁は、とうとう、そのまま朝まで寝てしまった。

   元日の朝、姑が、土間の隅で寝ていた嫁を起こして、「  あの棺桶は、なに?  」と聞いたのだが、昨夜のことを正直に話した嫁に激怒し、「  元日から棺桶なんて縁起でもない!どこかに捨ててきなさい!  」と姑が叫んだので、慌てた嫁が、棺桶を外に運びだそうとした瞬間、突然、目が痛くなるほどピカピカと棺桶が輝きだしたので、嫁が、「  死人が光っているのかな?んなわけないか…  」と思いながら棺桶をあけてみると、その棺桶の中には、たくさんの金の塊が入っていたという。

参考 『 色麻町史 』
現地で採集した情報