伝承之蔵

法印と狐
色麻町

   昔、 船形山神社法印 が、 小栗山 の権現様に参詣する途中、 船橋浦 まできたところで、気持ち良さそうに狐が寝ていたので、「 狐め。こいつらは、ときどき人間を騙しやがるからな。少し懲らしめてやるか 」と思った法印が、肩にかけていた 法螺貝 を狐の耳にあてて、ボウッと吹いたところ、驚いた狐は、法印をギロッと睨みながら一目散に逃げていった。法印は、「 ざまあみろ! 」と言って、そのまま旅を続け、 荒屋敷 の沼まできたところで、突然、空が暗くなったので、「 しまった!明るいうちに小栗山の宿坊までいくはずだったのに… 」と思って急いだのだが、 上高城 の大きなサイカチの木まで来たところで、完全に日が落ちて真っ暗になってしまった。法印は、「 しかたがない。ここで野宿するか… 」と決心し、法螺貝を枕元に置いて横になったのだが、しばらくすると、ジャラボン、ジャラボンと鉢の音がして、棺桶を担いだ葬式の行列がきたので、「 これは縁起が悪い… 」と思った法印が、サイカチの木の上に登ると、棺桶をサイカチの木の下に置いたまま、その葬式の行列は帰っていってしまった。

   法印は、「 なんだ、あいつら…、気味が悪いな… 」と思い、棺桶から逃げるために木からおりようとしたのだが、バリバリッと棺桶がわれて、棺桶の中から両方の手首をダラッとさげ、白い晒しの衣装を着た亡霊が出てきて、青白い顔で法印を見ながらニヤッと笑った。青い炎がトロトロと燃えている中から、ゆっくりと亡霊がサイカチの木を登ってきたので、法印は、必死に木の上に逃げたのだが、とうとう木のてっぺんまで亡霊がきて、これ以上、逃げることができなくなってしまった。やがて、亡霊が近づいてきて法印の足をつかもうとした瞬間、法印が、「 恐いよぉ〜、恐いよぉ〜! 」と泣きながら叫ぶと、木の枝が折れて、法印は、あっという間に地面まで落ちてしまった。ところが不思議なことに、地面まで落ちたはずなのに、法印が手で頭をさすっても、 もできていないし、血も流れていない。法印が冷静になってから、よくよく周りを見てみると、さっき、狐を懲らしめた場所に自分が寝ていたことに気がついたという。

参考 『 色麻町史 』
現地で採集した情報


現地レポート

この伝承の船橋浦・荒屋敷・上高城という言葉が、地名なのか、ある特定の場所を指しているだけなのかは不明だが、現在、この里には、船橋・屋敷・上高城という地名が残っている。船橋浦・荒屋敷・上高城が地名であり、現在の船橋・屋敷・上高城と同一の場所であると仮定すると、ずいぶん無理な動きをしていることが分かる。


船形山神社の法印が、わざわざ、この里を通って小栗山の権現様に参詣する必要もないので、もともとあった話に、自分たちの里の地名を強引に当てはめたと推量できる。


平成 21 年 9 月 14 日 ( 月 ) 掲載
令和 6 年 1 月 11 日 ( 木 ) 改訂