伝承之蔵

稲の恩返し
色麻町

   昔、この里に、心の優しい爺さんと婆さんが住んでいた。ある年の大晦日、婆さんが、「  おじいさん、明日は正月なので、町で米を買ってきてくださいな  」と頼むと、爺さんが、「  そうしたいのだが、残念ながら、銭がないんだ…  」と、寂しそうに答えたので、婆さんは、「  それでは、私が持っている 五尺 ばかりの布を売って、米を買ってきてくださいな  」と言って、爺さんに布をわたした。爺さんは、「  うん、そうか。それでは、そうしよう  」と言って、婆さんからわたされた布を持って町に向かったのだが、その途中、爺さんが何となく田の風景を見ていると、もう少しで実がつきそうな青い稲が育っているのが見えた。「  もうすぐ雪が降ってくるから、このままでは枯れてしまうな。もう少しで、実がなるというのに…  」と思った爺さんは、婆さんからわたされた布を稲にかぶせ、米は買わずに屋敷に帰って、そのことを正直に婆さんに話して謝った。すると、婆さんは、「  おぉ〜、それは良いことをしましたねぇ  」と言って、怒るどころか、心の優しい爺さんをニッコリと笑いながら褒めた。ところが、その翌朝、屋敷の玄関の前でドシーンという大きな音がしたので、爺さんと婆さんが玄関の戸をあけたところ、たくさんの米俵が、屋敷の中に転がり込んできた。爺さんと婆さんは、「  これは、ありがたい!こんな正月は初めてだ!  」と言って喜び、二人とも腹いっぱい御飯を食べて、幸せな正月をすごしたという。

参考 『 色麻町史 』
現地で採集した情報