伝承之蔵

角の化け物
蔵王町/宮
大河原町/堤/角

   昔、蔵王町の宮に、一本の大きなブナの木が立っていた。その木の直径は十五メートルもあり、高さは蔵王山よりも高く、その枝は、この里を覆いつくすほど広がっていたので、毎年、日照不足のため、田畑の作物は不作であった。そのため、里人たちは、この木を伐ろうとしたのだが、 「 たいへん古い木なので、神通力があるかもしれない … 。もし祟りがあったらたいへんだ 」 と噂する者もいて、なかなか伐れずにいた。

   その後、みんなで相談した結果、とうとう伐ることになり、ある日、早朝から集まった数十名の里人たちが、この木を鉞で伐り始めたのだが、木の幹が石のように堅く、昼になっても作業が終わらなかったので、それぞれ、昼御飯を食べに家に帰ることになった。ところが、昼食後、里人たちが現場に戻ってみると、不思議なことに、木は元の姿に戻っていた。里人たちは、 「 なんとも … 、不思議なこともあるもんだ … 」 と噂し、しかたがないので、その日は、そのまま家に帰った。

   翌日、里人たちは、今度は昼も家には帰らず、持ってきた弁当を食べながら、少しも木から目を離さずに再び作業をした。しかし、半分ほど作業が終わったとき、夜になってしまったので、そのまま家に帰ったのだが、翌日、現場に行ってみると、不思議なことに、再び木は元の姿に戻っていた。

   次の日、里人たちは、刈田嶺神社の神主に、木の前で祈祷してもらいながら、再び木を伐る作業を始めたのだが、いよいよ、鉞の刃が木の芯に近づくと、なんとも悲しげな呻き声が聞こえてきた。里人たちが、驚き恐れながらも震える手で作業を続けると、バリバリ 〜 、ドド 〜 という大きな音と共に木が倒れ、その瞬間、残った切り株の真ん中にあった穴から、 「 ギャ〜 ! ギャ〜 ! ギャ〜 ! 」 と叫びながら、化け物が飛び出した。その化け物は空に舞い上がると、血まみれの顔でジロッと里人たちを睨み、そのまま大河原町の堤に向かって飛んで行った。

   一方、堤にある、ある屋敷では、飼っていた犬が激しく吠えるので、屋敷の者が外に出てみると、庭の木の枝に、人間とも獣とも思える化け物が、全身が血まみれの状態でぶら下がっていた。驚き恐れた屋敷の者が、犬をけしかけて追い立てると、化け物は、鳥のように羽ばたいて逃げた。ところが、しばらくすると力尽き、近くの田圃に落ちて全身から火を噴き、一瞬のうちに炎となって燃え尽きたという。

参考 『 大河原のざっとむかし 〜 大河原の民話と伝説 〜 』
現地で採集した情報


現地レポート

化け物が落ちて燃え尽きたという田圃は、現存している。この田圃で、化け物が燃え尽きる光景を見た里人たちが、 「 たいへんだ 〜 ! たいへんだ 〜 ! 」 と騒いだことから、この田圃は、 “大変田” と呼ばれるようになった。この田圃の所有者の方の話によると、現在でも、そう呼ばれているとのことである。上の写真の赤い矢印が、大変田。 その後、この化け物は、この里の地名に因んで、 “ 角神 ” と呼ばれるようになった。大河原のざっとむかし 〜 大河原の民話と伝説 〜 には、 「 堤地区の角神のお祭りは、六月十五日です。この日が、怪物が燃え尽きた日であるかどうかはわかりませんが、向山地区でも、麦の熟れるころのことであったと語り伝えられています 」 とある。古老の話によると、この祭りは数年前まで行われていたのだが、残念なことに、現在は行われていないとのことである。


平成 25 年 9 月 24 日 ( 火 ) 掲載
令和 4 年 1 月 15 日 ( 土 ) 改訂


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