伝承之蔵 Spin off
伝承之蔵 Spin off


    2025年10月26日に投開票された宮城県知事選は、現職の村井嘉浩さん(=むらい・よしひろ=65歳)が当選を果たした。メディアの報道によると、誹謗・中傷が飛び交う激しい選挙戦だったようだが、その影響もあったのであろうか、当選した村井さんの得票が340190票、次点で落選した和田政宗さん(=わだ・まさむね=51歳)の得票が324375票と、その差は僅か15815票であった。選挙期間中の誹謗・中傷は昔からあったことであり、それほど珍しいものではないのだが、「限られた一部の人間が悪意をもって誹謗・中傷を流布し、その誹謗・中傷を無批判に受け入れて信じ込んだ人間が拡散する」という基本的な構図が、昔も今も何ら変わっていないことには呆れてしまう。ただし、SNSの普及に伴い、誹謗・中傷が拡散するスピードの速さと範囲の広さが、昔とは比べものにならないことは特筆すべきことである。そのSNSの影響の大きさのため、宮城県は、選挙期間中に広まる情報の真偽を検証するファクトチェックを県として実施できないか検討を始めたようである (ここをクリックすれば当該記事を閲覧できます)。

    「パンとサーカス」。古代ローマの詩人であるユウェナリスの言葉である。ローマ市民が、権力者によって与えられた食糧と娯楽によって政治に無関心になっている状況を批判したものなのだが、本来、私たち庶民の政治に対する関心は、その程度のものである。現在、日本経済が低迷し、私たち庶民の生活が困窮しているので、生活が安定していた時に身にまとっていた礼儀や節度などの“道徳の衣”を一枚ずつ脱ぎ捨てているため、庶民の本性が丸出しになりつつあるというだけの話である。

    中国の古典に、「倉廩実則知礼節、衣食足則知栄辱」という言葉がある。「米蔵が満ちれば礼節を知るようになり、衣食が足りれば栄誉と恥辱を知るようになる」という意味なのであるが、日本では、「衣食足りて礼節を知る」という言葉で馴染まれている。社会生活で人間が守るべき規範や規律を定めることも大切だとは思うが、真に大切なのは、私たち庶民の生活を安定させることによって人心を安定させ、礼節を重んじる環境を整えることである。そうすれば、ファクトチェックをする必要はなくなり、誹謗・中傷などという問題は、鼻で笑って終わりとなる。

  2025/11/19