白蛇地蔵

   昔、この里に、良く働くうえに、たいそう性格の良い娘が住んでいた。いつしか、その娘にも、 逢瀬 を楽しむ男性ができ、そのことに気がついた母親が、「 相手は、誰なんだい? 」と聞いたのだが、娘は、ただただ、顔を赤くするだけで、何も答えようとはしなかった。

   しかし、その後、娘の 妊娠発覚激怒 した父親が、「 相手は誰だ! どこの何者だ! 」と、厳しく娘を追及したところ、娘は、しぶしぶ、「 この里の近くに住んでいる 六部 です・・・ 」と答えた。さっそく、両親は、その六部を 捜した のだが、不思議なことに、いくら捜しても、どうしても見つけることができなかった。

   母親が、「 おまえの方から、その彼を訪ねたことはあるのかい? 」と聞くと、娘は、「 彼の方から通って来るだけです 」と答えた。 そこで、母親は、「 おまえが、そんなに好きなら、嫁にやってもいいんだよ。今度、来たら、どこに住んでいるのかだけでも聞いておいておくれ。 どうしても言わないときは、彼が帰るとき、 縫い針 に長い糸をつけて、着物の 縫い つけなさい 」と言った。

   すると、その日の夜、六部だという男は、いつもと同じように、娘のところにやって来た。娘は、泣きながら、男の住んでいるところを聞いたのだが、 その男は、「 どうしても、言えない理由があるんだ・・・ 」と言って、その夜は、逢瀬を楽しまずに帰ろうとした。 そこで、娘は、母親が言ったとおりに、縫い針を、男の着物の裾に縫いつけた。

   翌朝、家族の者たちは、娘と一緒に、その糸をたぐりながら、男の住んでいるところを探した。近くを流れる川にそって行くと、昼でも暗い 藪沢 があり、さらに、 をはらいながら草をわけて行くと、一つの 洞穴 があって、その中から 気味の悪い 唸り声 が聞こえてきた。

   その唸り声を聞いた娘は、その場で 気絶 してしまい、その騒ぎで、近くに住んでいた 里人 たちが、ぞくぞくと集まってきた。そして、みんなで、洞穴の中にいる怪物を 叩き 殺した後、洞穴から怪物を引きずり出してみると、年老いた 白蛇 であった。

   里人たちは、縫い針にぬっておいた毒のために、苦しみながら死んだ白蛇の 死骸 を、その洞穴に 埋めて 放置 したのだが、その数日後、娘は、原因不明の病気で死亡。里には、 疫病 が流行して、多くの里人たちが、次々に死んでいった。

   いくら、神社や寺に 参詣 しても、まったく 御利益 がなかったので、「 これは、私たちが叩き殺した白蛇の 祟り に違いない 」と思った里人たちが、みんなで相談のうえ、“ 白蛇地蔵 ”を建てて 供養 したところ、不思議なことに、その後は何もなく、里人たちは平和に暮らしたという。

参考『 気仙沼町誌 』

現地で採集した情報



“ 白蛇地蔵 ” 写真館

この伝承の白蛇地蔵は、千代ヶ丘霊園の中にある。赤丸が、白蛇地蔵。
これが、白蛇地蔵。

平成21年11月19日(木)掲載