おさん狐の子守唄

   昔、この里に、“ おさん ”という娘が住んでいた。おさんは、たいへん 子守唄上手 だったので、 里人 たちは、おさんのことを、“ おさん娘 子守り ”と呼んで、 頻繁 に子守りを頼んでいた。

   このころ、“ 竹の下屋敷 ”という屋敷に、ある 長者 が住んでいた。その屋敷は、とても広かったので、庭の に、ある 利口棲みついて 、いつも、おさんの子守唄を 熱心 に聞いていた。

   しばらくして、おさん にいったのだが、そのころから、この狐が子守りの娘に 化けて 、里人たちを 騙すように なった。泣きやまない 赤ん坊背負って 子守唄を歌いながら、 通行人 から 手土産奪う のが 得意 であった。里人たちは、この狐が、おさんと同じくらい子守唄が上手なことから、“ おさん狐子守り ”と呼ぶようになった。

   ある日、この里で結婚式があり、ある屋敷に 招待 された 爺さん がいた。たいへん酒が好きな爺さんだったので、 婆さん から、「 あまり酒を飲んじゃだめよ。 泥酔 すると、おさん狐に騙されるんだからね 」と注意された。ところが、爺さんは、 祝宴 の席で、あびるように酒だけを飲んで、 御馳走 には手をつけなかった。爺さんは、「 そうだ! この御馳走は、婆さんに食べさせてやろう 」と思い、屋敷の者に頼んで、御馳走を 包んで もらった。

   爺さんが、帰りの夜道を 千鳥足 で歩いていると、突然、あたりが明るくなった。驚き恐れた爺さんの前に、泣きやまない赤ん坊を背負って子守唄を歌っている娘が立っていた。爺さんは、あまりに上手な歌声に心を奪われて、その場に立ちどまって聞いていた。 ♪  ねんねんころりよ  ねんころり  坊やは良い子だねんねしな  里の土産に何もろた  でんでん太鼓に笙の笛…  ♪ そのうち、赤ん坊が泣きやんで眠ると、娘は、子守唄を歌うのをやめた。すると不思議なことに、今度は、あたりが急に暗くなった。爺さんは、「 しまった! おさん狐か! 」と叫び、持っていた藁の包みを強く 握って 、急いで家に帰った。

   家に帰ると、爺さんは、「 今、帰った! 」と言って、御馳走の入った藁の包みを婆さんにわたしたのだが、藁の包みの口が大きくあいていて、すべての御馳走が盗まれていた。これに 激怒 した婆さんは、「 だから注意しなさいって言ったでしょ! ボケ〜としてるから、御馳走が盗まれるのよ! どうしてくれるのよ! 」と叫び、激しく爺さんを 叱責 したという。

参考『 三本木町誌 下巻 』

現地で採集した情報



“ おさん狐の子守唄 ” 写真館

この伝承の“ 竹の下屋敷 ”は、昔、上の写真のあたりにあったのだが、現存していない。ちなみに、“ 竹の下 ”というのは、里人たちが使用している地名であるが、 正式 な地名ではない。
三本木町誌 下巻に、「 竹の下屋敷で生れ、今は近所の真岸に住んでいる 菅原きくえ さん( 八十一歳 )のお話によると… 」とあったので、菅原きくえさんを 訪ねた ところ、すでに、 ・菅原きくえさんとなっていた。 古老 の話によると、 莫大借金 をして屋敷を 増築 したところ、その借金が払えなくなり、屋敷は売却されたとのことであった。その後、この屋敷に住んでいた方たちは、北海道に移住したという。
この伝承には、 後日談 がある。ある夜、爺さんの帰りが遅いので、婆さんが、「 おさん狐に騙されているのかねぇ… 」と心配していると、「 婆さんや、今、帰ったよ 」という爺さんの声がした。 ところが、いつまでたっても家に入ってこないので、婆さんが外に出てみると、爺さんが土の上に寝ていた。何回も起こしたのだが、爺さんが 目覚め なかったので、 呆れた 婆さんは、爺さんを、そのままにして家の中に入った。しかし、やっぱり心配になって、ふたたび外に出てみると、寝ていたはずの爺さんがいなくなっていた。婆さんが、「 これは、おさん狐の 仕業 かな? 」と思っていると、爺さんが、「 婆さんや、今、帰ったよ 」と言って帰ってきた。そして、持っていた藁の包みを婆さんにわたしたのだが、またもや、すべての御馳走が盗まれていた。
いつも、おさん狐は人間に化けて、人間たちがやっている、 嫁入り のための 行列真似 していた。このとき、通行人が、「 お 婿 さんも、お さんも 綺麗 だなぁ〜。お 似合い の夫婦だ 」などと見とれていると、気がついたときには、持っていた藁の包みの中の御馳走は、すべて盗まれていたという。里人たちは、これを、“ 狐の 提灯行列 ”と呼んで 警戒 した。ちなみに、この提灯行列を遠くから見ている里人たちには、提灯の数が多くなったり少なくなったりして見えるので、「 おさん狐だな。また誰かが、御馳走を盗まれてるぞ 」と しながら見ていたという。上の提灯行列の写真は、ウェブサイト「 元気です!! 」より画像を引用させていただきました。

ウェブサイト「 元気です!! 」

平成23年9月7日(水)掲載