伝承

横山家と長坂山の狼
大崎市/三本木新沼

   昔、この里に、横山家の 初代 である、 “ 若狭 ” という者が住んでいた。若狭は、たいへん女好きで、いつも女遊びをしていたので、屋敷に帰るころには、必ず、真夜中になっていた。ある日、いつものように女遊びをした後、屋敷に帰るため、 長坂山 の暗い道を歩いていると、突然、大きな口をあけて、 唸り声 をたてている老いた が、若狭の前に現われ、今にも若狭を襲いそうな 雰囲気 であった。ところが、いつまでたっても、狼が襲ってこないので、不思議に思った若狭が、じっと、狼を見てみると、狼は、泣きながら、口から を流していた。さらに、若狭が、じっと、狼の口を見てみると、狼の の骨が 刺さって いた。

   若狭は、 「 そうか、それで苦しんでいたのか。なんと 哀れな … 」 と 呟き 、狼に言い聞かせるように、 「 よし ! 喉に刺さっている骨を取ってやるぞ ! 暴れる なよ ! 」 と叫んで、喉に刺さっている骨を取ってやった。そして、若狭が、 「 今後は、絶対に、横山家の者たちを 脅す ようなことはしないでくれ。犬でさえ、三日も 養えば 、三年間は、その を忘れないという。まして、おまえたち狼は、犬の 先祖 であろう。おまえたちの仲間にも、そして、 末裔 にも、よくよく言い聞かせておいてくれよ 」 と狼に言うと、狼は 尻尾 をふって 喜び 、若狭の 周囲 をグルグルまわってから去っていった。

   数日後、若狭が、いつものように、女遊びをした後の帰り道、長坂山のあたりで、若狭は、狼の集団に取り囲まれた。このとき、若狭は、数日前に助けてやった、老いた狼のことを思い出した。そして、 破れかぶれで 、 「 狼どもよ ! 近くにいるなら 寄って 聞け ! 遠くにいるなら音に聞け ! 数日前、おれは、おまえたちの仲間を助けてやった ! そのとき、その狼は、今後は、絶対に、横山家の者たちを脅さないと約束した ! おまえたちは、その約束を忘れたのか ! この 恩知らず どもが ! 根性 があるなら、道をあけろ ! 」 と叫んだ。すると不思議なことに、狼たちは、若狭を襲わずに姿を消した。

   次の日の夜、突然、若狭の屋敷の庭で、ドスンという大きな音がしたのだが、危険を感じた 家人 たちは、庭には出ずに、屋敷の中に 隠れて いた。翌朝、家人たちが庭に出てみると、庭の中央に大きな猪が置いてあった。若狭は、 「 狼たちが、仲間を助けてもらった 御礼 に持ってきたんだな。 義理堅い やつらだ 」 と言って笑い、心から 感謝 した。その後、若狭が、真夜中に帰るときは、いつも、狼たちが若狭を 包囲 し、屋敷まで 厳重警護 してくれた。

   数十年後、横山家の三代目である、 “ 正六 ” が、ある 行屋 の近くを通ったとき、狼の集団に襲われた。正六は、すぐに行屋に入り、自分を取り囲むように火を 焚いて 身を守ったのだが、狼たちは、近くにあった 鳴瀬川 の水で体を 濡らし 、その火を消してから正六を襲おうとした。このとき、正六は、昔、横山家の初代が、老いた狼を助けてやった話をしてくれたのを思い出した。

   そこで、正六は、 「 狼どもよ ! 近くにいるなら寄って聞け ! 遠くにいるなら音に聞け ! 昔、おまえたちの先祖に、喉に猪の骨が刺さって困っている狼がいた ! それを 不憫 に思った私の先祖が、その狼を助けてやった ! そのとき、今後は、絶対に、横山家の者たちを脅さないと約束したんだぞ ! おまえたちは、その約束を忘れたのか ! この恩知らずどもが ! 根性があるなら、道をあけろ ! 」 と叫んだ。すると不思議なことに、先頭にいた一匹の狼が姿を消すと、残りの狼も次々に姿を消し、やがて、すべての狼がいなくなった。正六は、 「 お爺ちゃん 、ありがとう。助かったよ。それにしても、狼にも、 立派 な根性があったんだな … 」 と呟きながら、 無事 に、屋敷に帰ったという。

参考 『 三本木町誌 下巻 』
現地で採集した情報


“ 横山家と長坂山の狼 ” 写真館

三本木町誌 下巻には、 「 新沼字上宿に横山家初代の若狭氏 ( 永禄 元年一月生 ) は、現在横山家十四代目を 継ぐ 横山巌氏の御先祖に当る方であつた … ( 中略 ) … 以上は横山家の伝説として代々子孫が語り伝えて来たと別家横山宮記氏等が語つていた 」 とある。


平成24年5月12日(土)掲載